文部科学省と国立教育政策研究所が実施した「経年変化分析調査」によると、2024年度の中学3年生(現在の高校1年生)は、2021年度の同学年と比べて、全国学力テストにおいて国語・数学・英語の3教科すべてでスコアが低下していました。
特に注目すべきは、低得点層の増加と、高得点層の伸び悩みです。単に「できる子が減った」というよりも、「伸びるはずの子が、伸びきれない環境にある」と感じています。
塾現場から見える学力の格差
当塾でも、今も昔も、学習意欲が高く成績優秀な生徒がいる一方で、なかなか勉強に本腰が入らない生徒もいます。最近は特に、学力や学習意欲の格差が広がっていることを実感します。目標に向かってひたむきに努力する生徒もいれば、目前の課題から目を背け、インターネットの世界に心を奪われたような表情の生徒も散見されます。「ここは勉強色の強い場だからこそ、こうした様子が見えるのかもしれない」と思いつつも、学校・部活動・家庭・習い事など、他の場面では非認知能力(意欲・忍耐力・自制心・やり抜く力・協調性・共感力・自己肯定感・コミュニケーション力)を育てていてほしいと願っています。
そして、日本全体の学力の経年変化が「経年劣化」にならないように、子どもの学習に関わる大人も、もう少し“ピリッとした環境”で指導することも必要なのではと感じています。
調査結果から見える課題
1. 教科別の学力変化
- 国語・英語:前回調査(令和3年度)よりスコアが低下。
- 数学:やや低下したものの、ほぼ横ばい。
特に英語のスコア低下は顕著です。現行カリキュラムの時間数や指導内容に無理があるのではないでしょうか。2021年度以降の教科書は、卒塾生の大学生も驚くほどの“文法のサラダボウル”状態です。
中学生には、国語科のように「be動詞」「一般動詞」など、文法専用の単元を設けるべきではないでしょうか。文法学習は、論理的思考力を育てる絶好の機会です。
また、小学生のうちに、基本単語や英文のSpeaking・Writingを徹底することが不可欠です。音楽や体育の時間に英語の歌やダンスを取り入れるなど、楽しみながら慣れる工夫も有効かもしれません。
2. 生活習慣との関連
- 学校外の勉強時間:減少傾向。長いほどスコアが高い。
- スマートフォン・ゲームの使用時間:増加傾向。長いほどスコアが低い。
勉強時間の確保とスマートフォンの影響については、納得できる結果です。加えて、タブレット学習やアクティブラーニングの導入にも功罪がありますが、現時点ではマイナス面の方が大きいと感じています。
「教師が単元を体系的に指導し、その前後や間に演習を取り入れ、生徒が自分の頭の中で再構築する」——このような学習は、情報量の多いタブレットや、生徒同士の学習では難しい場面もあります。
教師の的確な説明から生まれる言葉が、生徒のイメージを喚起し、学習の定着度を高める。この原点を忘れずにいたいものです。
3. 社会経済的背景(SES)との関係
- SESが低い家庭の生徒ほど、学力の低下が顕著。
- 特に中学校英語以外の教科でこの傾向が強い。
調査では、家庭の蔵書数が多いほど、各教科のスコアが高いという結果も出ています。読書習慣や大人との会話が、学力に好影響を与えることは間違いありません。
SESには、親の経済力、親の学歴などが含まれていますが、当塾では、あまり相関関係を感じていません。塾に通う生徒の中には、家庭の経済状況や保護者の学歴に関係なく、「月謝を払ってもらっているからこそ、無駄にできない」という意識を持っている子がいます。このような生徒は、授業への集中力が高く、課題にも前向きに取り組む傾向があります。そして、何よりも無駄にしていけないのは、生徒の皆さんの時間です。
最後に
子どもたちの学力が「経年劣化」ではなく、「経年進化」していくように。私たち教育に携わる者は、環境・指導・関わり方を見直し続ける責任があると感じています。