ラーメン店を経営していた約20年前、辻調理専門学校のスクーリングに参加したことがあります。学校にとっても初めての試みで気合の入ったその講座では、北京ダックのような本格中華から創作中華まで、調理はもちろん、それ以上に試食を堪能しました。いい体験をしたせいか、帰省直後に自分で作った看板メニューの「醤健そば」が一番美味しかったと、今でも語ってくれる元従業員(教え子でもありました)もいます。
そのスクーリングでのことです。ある日のメニューに「マンゴーとゴーヤの牛肉巻き」がありました。先生の調理を見て試食した後、今度は自分で調理して食べてみると、「…何か違う!」。ゴーヤの苦味とマンゴーの甘味の対比は、初めて食べるなら十分に美味しいはずです。しかし、先生が作ったものに比べて、どうもゴーヤの苦味ばかりが際立ち、マンゴーと調和していないのです。原因は、ゴーヤの「油通し」という下処理を忘れていたことでした。普段の調理では行わない工程だったため、その一手間の価値を理解していなかったのです。
なぜ、この苦い経験を思い出したのか。最近、春の味覚であるふきのとうの天ぷらを食べたから…というより、実は先日の中学生への数学の授業中に、ふと蘇ってきた記憶なのです。
現在、授業では数学の最初の単元、「正負の数」や「文字式」といった計算分野を教えています。私が黒板で正しい手順通りに解けば簡単に見える問題でも、生徒たちはどこかの工程を省略したり、自己流で解いたりして、意外なほど間違えることが多いのです。解いている様子は順調そうに見えても、採点すると全問正解者は少なく、その結果に生徒も、そして私たち講師も驚くことが度々あります。間違えた生徒には、正しい手順で解き直せるまで、授業後も残って取り組んでもらいます。「間違えると帰宅が遅くなる」という意識からか、次回からぐっと正答率が上がる生徒もいます。
料理における「油通し」のように、数学の問題を解く際にも、一つ一つの工程には意味があります。その意義をきちんと理解すること。そして、間違えたときに、すぐに消しゴムで消してしまうのではなく、「自分はどの工程で間違えたのか」を冷静に見つけ出すこと。この二つができるようになれば、きっと大きく成長できるはずです。